インド人エンジニアの採用ガイド
世界中の一流企業がこぞって獲得に乗り出しているのが、インド人エンジニア。このページでは彼らがなぜそこまで熱い注目を集めるのか、採用するにはどうすべきなのかについて、情報をまとめました。
【地理・文化・政治・宗教観】インドってどんな国?
南アジアの大国・インドの総人口数は中国を抜いて世界第1位。また、国土面積でも世界第7位という広大さを誇ります。
その起源は、世界5大文明のひとつ『インダス文明』にまで遡ることができます。何千年もの歴史の中でさまざまな民族が混じり合ってきたため、国内の使用言語は約30にも上ります。中でも話者数が多いのは『ヒンドゥー語』と『タミル語』。また、約100年間に渡りイギリスに支配されていた歴史があるため、英語が堪能な人も数多く存在します。
その多様性は、宗教においても顕著です。最もメジャーなのは、全体の約8割を占めるヒンドゥー教。多神教であり、さまざまな神を極彩色で描くカラフルな宗教画はインド文化を象徴するもののひとつです。 他にもイスラム教や男性教徒が頭にターバンを巻くことで知られているシク教など、多数の宗教が混在しています。
インドは1947年にイギリスの統治から独立を果たしましたが、当時は社会主義的な経済体制整備を志向していました。しかし、1990年代以降は開放的な経済政策が採用されるようになり、その成果は徐々に現れつつあるところで、現在に至っています。国民ひとりあたりのGDPは世界平均に満たないものの、成長率は高い数値を示しているのです。中でもITビジネスの急成長ぶりが顕著で、世界中から熱い注目を集めています。
【国民性】インド人エンジニアの特徴は?
「0(ゼロ)を発見したのは、インドである」という逸話から想起されるように、インド人は数字に強い民族です。1947年の独立以降は「学校教育の中でも、特に数学を強化する」という施策を採用。近年は、義務教育の中に『IT教育課程』を取り入れるほどになりました。
そんなインドの若者にとって、エンジニアは憧れの花形職業です。
インド人の約8割が信仰する『ヒンドゥー教』にはカーストという階級制度があります。かつてのような社会的差別はいまのインド憲法で禁止されていますが、低い階級に位置する人が職業選択時に制約が生じるといった慣習はまだ残っています。しかし、新興産業であるIT業界では、古い因習にとらわれない採用が一般化され、カーストの階級に束縛されることなく仕事に就けることから、多くの人が幼少期から厳しい教育を受けてスキルを磨いています。
その登竜門として海外からも認知されているのが、工科系教育機関の最高峰ともされている国立大学、「インド工科大学(IIT;Indian Institutes of Technology; IIT)」です。特定のひとつの大学ではなく、インド国内に現在23校ある大学群の総称です。「インド工科大学デリー校(IITD)」や「インド工科大学ハイデラーバード校(IITH)」などは、日本の大学とも連携を取ることが多く、よく知られています。これらの学校で優秀な成績を修めた人材は、世界でも一流のエンジニアとして活躍できる資質を持っており、世界中の大手IT企業が、獲得に向けた争奪戦を繰り広げるほどです。
母国ならではの諸事情を背負い、エンジニアとしての一歩を踏み出したインド人は「優秀なだけでなく、新たな可能性を追うハングリー精神に溢れている」と言えそう。ただし「時間や期限にルーズ」という国民性だけは、きちんと管理しなくてはなりません。
【新卒・転職】インド人エンジニアの就活・採用事情
前項で説明した通り、エンジニアは、若きインド人にとって非常に魅力的に映る職業です。カーストに捉われずに就職できるほか、給与水準が他の職業よりも高く、初任給でも倍以上の額が見込めるという事情があります。人口が多く、貧富の差が激しいインドの競争社会の中で生き残っていくために、有効な手段と映るのは当然ともいえます。
教育機関でエンジニアリングの学士号を取得する学生の数も年々上昇しており、2020年には情報通信技術関連を専攻した「IT分野」の卒業者数だけでも年間55万人を記録。これは、同年の世界の国別ランキングで第2位となった米国(14.8万人)、第3位のロシア(9.3万人)を大きく引き離した、堂々の世界ナンバーワン記録です。ちなみに日本はこのランキングでは第9位。「3.4万人」という記録です。インドのIT人材の“母数”の大きさがいかに桁違いか、おわかりいただけるでしょうか。
また近年は、大手の外資企業が数多くインドに進出しています。特に「インドのシリコンバレー」と呼ばれるベンガルール(旧都市名:バンガロール)には、マイクロソフトやグーグルを始めとした外国企業がこぞって進出し、日本のトヨタやソニーといった企業も拠点を置いています。さらに、こうした外資系企業に加えてインド発のスタートアップ企業も多く集まっているほか、エンジニアを育成する教育機関も集積しており、IT産業においても、ITエンジニア教育においても、インドで最も盛んなエリアと言えます。
さて、こうして市場へと参入する新卒の学生たちは、どのような業界でエンジニアとして活躍しているのでしょうか。そのトップに挙がるのはやはりITや通信業界。そして、エネルギー産業や自動車業界などが後に続くようです。
インド国内での就職に留まらず、一部の優秀層であればアメリカやイギリスといった英語圏に就職する学生も多くいましたが、近年ではアメリカのビザ発給の厳格化により、人材が国内に留まっている状況です。
【仕事観】インド人エンジニアが就職先を選ぶ際に重視するポイント
インド人エンジニアが就職の際に意識するのは、まず給与です。IT大国として目覚ましい発展を続けているインドですが、国民1人あたりのGDPはまだまだ低い水準にあります。
「アメリカのシリコンバレーにあるIT企業では、管理職の約6割がインド出身者」というデータを見てもわかるように、「海外でエンジニアとして活躍すれば、国内の何倍も稼げる」という例はまだ数多くあるため、「少しでも多く稼ぎたい」というハングリー精神が強いのです。
また、インド人は終身雇用制度に頼る気持ちを持っておらず、キャリアアップを重視しています。このため「この企業に入っても、自分自身が成長できない」と判断すれば、あっさり切り捨てます。採用の際には具体的なキャリアアッププランを事前に提示し、「就業したら何をしてもらいたいのか、その成果としてどんな展開を目指せるのか」を、きちんと共有できるようにしましょう。
さらにインド人は、宗教的な伝統に基づく行事を大切にする習慣を持っています。特に重視するイベントを家族と過ごすため、休暇がきちんと取れるかどうかは、シビアにチェックしているはず。こうした文化を尊重する体制を社内に整えておくことも、大切です。
【どうやって出会う?】インド人エンジニアを採用する方法は?
外国人エンジニアの中でも、特にインド人を採用したいという場合、どうすべきなのでしょうか?以下に見ていきましょう。
人材派遣会社の利用
人材派遣会社は、あらかじめ素性や教育、そして経歴を精査したインド人材を抱えているため、ミスマッチが未然に防げるという意味で、安心感が高くなっています。
費用は、採用が決まるまで発生しません(採用の場合は、年棒の35%程度を支払うのが一般的)。
直接採用イベントへの参加
大学の就職課を通した就職活動が一般的なインドでは、キャンパス内での企業による直接採用イベントを積極的に実施しています。
母集団形成から面接、内定出しまで短期間で行えるほか、一度の参加で複数人を採用することができます。
社員からの紹介
「すでにインド人を採用している」という会社の場合、既存社員からの紹介という方法もあります。選考過程で生じるさまざまな事柄や経費をカットできるという意味では、メリットの多い方法です。
しかし先述の通り、インド社会は日本人に想像しにくい、さまざまな事情を抱えています。同郷人同士の感情的な推薦が介入した結果、あまり業務にふさわしくない人物を採用してしまうことも考えられますので、経歴などのチェックは慎重に行いましょう。
【注意点】インド人エンジニアを採用する際に意識すること
インド人に限らず、外国人にはそれぞれの国民性があります。業務を円滑に進めていくうえで、理解を深めておく必要がありそうです。
まず、インド人は基本的にコミュニケーション能力が高く、目上の人を敬います。ヒンドゥー教の階級社会の中で醸成された国民性と言えそうであり、新しい仲間として一緒に仕事をする際に、日本人社員との間に軋轢が生じにくいかもしれません。
その反面、過酷な社会で培われたサバイバル能力は高く、自己主張もそれなりに強めです。特に「業務上の指示書に不備があった」または「内容の記述が不十分で、理解できない部分があった」という場合、「黙って対応してくれる」とか「察してフォローに回ってくれる」という対応は、まず期待できません。
また「時間や期限にルーズ」「問題が発生した際に責任を認めず、延々と言い訳を続ける」というネガティブな一面もありますので、曖昧な指示はできるだけ避けるように。彼らの良い面も悪い面も意識しながら、マネジメントにあたるようにしてください。
インド人エンジニアの採用まとめ
世界有数の広い国土の中で生きる、多彩な背景を持つ国民を抱えるがゆえに、インド社会は多くの試行錯誤を繰り返してきました。国内産業の成長が人口増加に比例せず、貧富の格差はまだまだ解消されてはいませんが、IT産業での評価は世界的に高まっており、将来に向けた大きな希望材料として機能しています。
人口で世界一の国となって産業的にも経済的にも大きな転換点にある今のインドに生まれ、さらなる可能性を求める若き人材の採用は、日本企業の側にとっても大きな刺激となることが期待されます。インド出身者が、外国人エンジニアとして最も魅力的な人材として注目しておくべき存在であることは、間違いありません。