ロシア人エンジニアの採用ガイド
近年、国際社会での発言力を増し、そしていろいろな意味でその動向を注目をされているロシア。国民の教育に関して先見の明があり、有望なエンジニアが続々と排出される国でもあります。
【地理・文化・政治・宗教観】ロシアってどんな国?
ヨーロッパとアジアの間に位置するロシア。世界第一位という広い国土を所有していますが、その大部分はシベリアの森林地帯にあたるため、人口はさほど多くはなく、1億5,000万人程度です。
20世紀初頭にはソビエト連邦として世界初の社会主義国家となり、第二次世界大戦後、主義の異なるアメリカと本格的に対立しました。この冷戦状態は1990年代初頭まで続きましたが、1991年にソビエト連邦政府が解体されてロシア連邦が成立。それにともない市場機能を重視した経済へと移行したものの、その後、政策の失敗が続き、1990年代の半ばには貧困層が激増するなど、国情が不安定になります。
しかし、2000年に第1回目の就任を果たしたプーチン大統領の政権下で経済は回復の兆しを見せ、ようやく新生ロシアの第一歩を踏み出すようになりました。いったんは大統領職を退いたプーチンは2012年に再就任を果たして現在に至りますが、近年はその動きがあらゆる意味で世界中から注目を集める存在となっています。
なおロシア人の多くが信仰するのは、ロシア正教。カトリック、プロテスタントと並ぶ『三大キリスト教』のひとつと考えられています。
【国民性】ロシア人エンジニアの特徴は?
一見、「冷たそう」という印象もあるロシア人ですが、彼らは愛想笑いを嫌うだけだと言われています。
ロシア人は「友達は友達、同僚は同僚」と明確な区別をする傾向があり、「仕事上の利害が絡んだ友人関係は、信頼しない」という、潔癖さもあるようです。とはいえ、何らかのきっかけで、同僚以上の関係を築いた人には、惜しみなく心を開いてくれるでしょう。こうした実直さは、日本人にも通じるところがあるため、第一印象が良くなかったとしても、必要以上に心配することはなさそうです。
また意外と知られていない事実ですが、ロシアはエンジニアを数多く輩出している国です。ユネスコが「大学や大学院の卒業後にエンジニアリングや製造・建築の分野に進んだ学生の数」について調べた2015年の調査では、すでにIT大国として知られていた米国を抜いて、エンジニアの輩出数世界一になったこともありました(※)。 その背景には、ロシアの高等教育が関係しています。小学校から高校の授業の中に、情報教育が含まれており、幼いころから基礎理論やネットワーク技術、そしてプログラム言語について学ぶ機会を得ているのです。
※情報出典:World Economic Forum 2015 / UNESCO Institute for Statics
*新卒学生ではない「ITエンジニアとして就業する総人口」において、2022年時点の統計では、米国・インド・中国がTOP3で、ロシアは第8位となっています。
【新卒・転職】ロシア人エンジニアの就活・採用事情
前項でも紹介した通り、ロシアはエンジニアの輩出力が高く、また英才教育のおかげで人材も優秀です。
またロシアは学歴社会ですので、名門・モスクワ大学やサンクトペテルブルグ大学に入学し、エンジニアになるための教育を受けた人材は好待遇での就職が可能。他の業界よりも高い給与を得ることも多いとされています。
そんなロシアですが、現在、さまざまな業界で人材不足が起こっています。ソビエト崩壊後の1990年代後半、大きな貧困が人々を襲ったため、出生率が史上最悪のレベルにまで落ち込みました。その結果、現在20代前半で「これから社会に出る」という世代の人口割合が非常に低く、若年層の労働力が不足しているのです。
一方、現在のロシアには、共産主義国家だった時代の名残りか、政府によるインターネット検閲などが明確に実施されています。プーチン大統領が2022年2月から開始した“ウクライナ侵攻”という事案も含めて、国家としての情報統制の傾向はこのうえなく強まっている状況であることは、間違いないと考えられます。
「若い起業家が新しい事業を興した場合、ロシア当局が事務所を調査に来る」など、自由主義経済の国では考えられないような介入もあるため、行き詰まりを覚えた優秀な人材は、海外での就職を真剣に検討しつつあります。
【仕事観】ロシア人エンジニアが就職先を選ぶ際に重視するポイント
ロシア人エンジニアは非常に優秀で、基本的には国内での待遇も悪くありません。にも関わらずわざわざ外国で就労しようと考える人には、やはり理由があります。
前述の通り近年のロシアはプーチン大統領が断行する政策により、政治的な緊張感を高めています。国内での言論統制なども著しく厳しくされていて、そうした環境を受け入れがたいと感じている人材は決して少なくないはずです。そうした国内外の状況から、ロシア人は「海外で就職をしたほうが安定できるかもしれない」と考える可能性があると判断できます。
一方で、就業にあたり、長時間の残業や休日出勤などを強いる企業は、避けられる傾向にあります。ロシア人はまず『自分らしく働ける環境』を求めているのです。
またエンジニアとして高い能力を持つロシア人は、給与にもこだわります。ほんの数十年前に、出生率が低下するほどの貧困を経験している国ですし、資金的な豊かさについては関心が高い傾向にあると言えます。
【どうやって出会う?】ロシア人エンジニアを採用する方法は?
外国人エンジニアの中でも、特にロシア人を採用したいという場合、どうすべきなのでしょうか?
1.人材派遣会社などの利用
日本で働くロシア人の数は、まだまだ多いとは言えません。まず本国内で若年層が不足しているほか、海外へ活路を求める人材は近隣の東欧諸国や、アメリカに向かうからです。ただし、外国人材の派遣に専門性を持つ会社が、ロシア人の登録者を抱えている可能性はあります。
また近年では、ロシアのIT人材の現地採用会を企画する企業も、増えてきています。
2.教育機関との連携
ロシア人留学生を受け入れている教育機関と信頼関係を築き、卒業生の獲得を目指すという方法もあります。
ロシアのエンジニアは売り手市場であり、「日本で就職したい」と考えている人材は、さほど多くはないでしょう。しかし、日本で留学経験を積んでいる学生の中には「このまま日本に残って、働きたい」と考えている人材も少なくありません。例えエンジニアとしての教育を受けていなかったとしても、小学校から日常的に英才教育を受けてきたという、素地があります。
基本的なエンジニア育成をするだけでも、思わぬ戦力となってくれる可能性は否定できません。
【注意点】ロシア人エンジニアを採用する際に意識すること
ロシア人は、日本人のように「行間を読む」「雰囲気を察する」というコミュニケーションはあまり得意ではなく、思ったことをはっきりと伝えることを好みます。人によっては非常に大きな声で、自分の意見を強く述べることもあるようですが、決して悪気があるわけではありません。
また、ロシア人は縦社会のルールにも馴染みがあり、上司を敬い、尊重する慎み深さを持ち合わせています。
ただ、「彼らにとっての数分後は、3時間後を指す」と言われるほど時間にはルーズな側面もあります。円滑な業務のためには、日本は時間に対して非常に厳しいという現実を、きちんと理解してもらう必要があるかもしれません。
ロシア人エンジニアの採用まとめ
ロシアのエンジニアが、世界でも群を抜いて優秀であるという事実を、初めて知った方も多いのではないでしょうか。しかし、若年層は人口自体が少ないということもあり、その獲得はなかなか難しいというのが現状です。ロシア人エンジニアを獲得できた場合は、彼らが気持ちよく就業できるよう、自社の環境を整備する必要があるかもしれません。