外国人エンジニアを採用する際に確認すべき在留資格
不法な入国者や滞在者を防ぐため、出入国管理及び難民認定法に定義されているのが「在留資格」。こちらに定められている基準をきちんと満たしていないと、せっかく発掘して採用した外国人エンジニアを日本へ呼び寄せることができません。その詳細を確認していきましょう。
在留資格とは何か?
移民や難民の受け入れは、日本のみならず、世界中の様々な国で大きな課題となっています。外国人がひとつの国へ無節操に流入し、生活を営みはじめると、さまざまな影響が現れます。その影響が好ましくない事も多いため、どの国も外国人の入国に一定の制限を設けているのです。
同じ理由から日本でも制限を設けており、それを法制化したものが「出入国管理及び難民認定法(通称「入管法」)」であり、その中で定義されているのが「在留資格」という資格です。旅行や出張などのごく限られた期間の滞在旅行など短期滞在の場合は、簡便な手続きで短期滞在ビザ観光ビザを取得してパスポートへの刻印だけで済むのですが、就労を目的とした長期的な滞在の場合は「在留資格認定証明書」を取得して「ビザ(査証)」の交付を受ける必要があります。
外国人エンジニアを採用する際は、本人ではなく企業側が代理人として、出入国在留管理庁(通称「入管」)入国管理局に「在留資格認定証明書」の交付を申請します。これらが交付されないと、ビザの交付を受けることが難しくなり、日本での就労はおろか、入国することさえできなくなります。
交付には1~3ヶ月の審査期間が必要となります。チェックされるのは、主に次の2点です。
外国人人材側
- 外国人の受けた教育や職務経歴が、来日目的(企業での業務内容)と適合しているか。
受け入れる企業側
- 企業の規模や業績。受け入れ先としてきちんと機能するか。
海外から外国人を呼び寄せ雇用する際に必要な在留資格
ひと口に在留資格と言っても、さまざまな種類に分かれており、実に30以上の種類があります。例えば日本人と外国人のカップルが結婚し、日本で生活を営むこととなった場合には[日本人の配偶者等]という在留資格が付与されます。
外国人を日本に呼び寄せて雇用する上で必ず必要となるのが在留資格ですが、外国人が従事する業務内容により、取得すべき種類が異なります。
エンジニアの場合は[技術・人文知識・国際業務]が該当します。取得時に申請した業務以外の業務に従事する事はできません。例えば、エンジニアの業務内容で申請をしていながら、営業の業務を行う事はできません。違う業務内容、職種に就こうとする場合は改めて在留資格認定証明書の交付を受ける必要があります。
また、その有効期間は資格により異なるほか、同一の資格内でも、例えば[技術・人文知識・ 国際業務]の在留資格では3ヶ月~5年などと開きがあります。
なお在留資格認定証明書が交付され、無事日本へ入国できた外国人には、通常は空港で「在留カード」が発行されます(※)。「在留カード」は取得者の身分を証明するものであると同時に、携行が義務付けられている大切なものです。3ヶ月を超える滞在が認められた者だけに交付される証明書となっています。
※「在留カード」が発行されるのは、新千歳空港、成田空港、羽田空港、中部空港、関西空港、広島空港、福岡空港の7空港です(2023年10月現在)。「在留カード」が発行されない空港や海港から入国した場合には、その人が入国後に届け出た住居地あてに後日、簡易書留で郵送されることとなります。
転職する国内の外国人を雇用する際に確認すべき在留資格
在留資格を交付され、A社に就労した外国人エンジニアが、資格の期間内にB社に転職するというケースがあります。大別して以下のバリエーションも考えられるでしょう。
- 同じ職種での転職
- 異業種への転職
1の場合、新しい職務内容が既得の在留資格と一致することが明らかであれば、入管への届け出とハローワークへの届け出のみ必要になります。
入管(正式名称:出入国在留管理庁)への届け出は外国人材本人が行う必要があります。
将来発生する予定として届け出られたものは受付できない規定となっていますので、前の契約の終了から新たな契約の締結まで(つまり、A社を辞めてから、B社で正式に働きだすまでに)14日以上開きがある場合は「契約の終了」と「新たな契約の締結」を別々に届け出る必要があります。
契約の“切れ目”が14日以内である場合は「契約の終了と新たな契約の締結」を同時に届け出る書式もあります。
一方、ハローワークへの届け出は雇用主(転職人材を受け入れる「B社」)が行う必要があります。
届け出るのは「雇用保険被保険者資格所得届」と「雇用保険被保険者資格取得届、資格喪失届外国人労働者在留カード番号」になります。似たような名称で混同しがちですが、それぞれで書式があります。(該当自治体のハローワークHPなどで詳細情報を得ることができます)
新しい職務内容が既得の在留資格と一致するかどうか定かではない場合、(人材を受け入れるB社は)念のため「就労資格証明書」の交付を申請しておくことをお勧めします。審査は1ヶ月程度であり、このプロセスを経ておけば雇用した外国人材が在留期間更新許可申請にあたって不許可となる事を未然に防ぐことができます。
なお、採用した人材が前の職場を退職して転職する場合は(つまり、人材をそれまで雇用していたA社は)「雇用保険被保険者資格喪失届」をハローワークに届け出ることが求められていますので、このこともご留意いただければと思います。
2の場合は、1の場合と同様に「入管への届け出」と「ハローワークへの届け出」が必要であることに加えて、「就労資格証明書」の交付の申請が必須となります。
在留資格認定証明書の取得では本人が受けた教育や就労経験を申告したうえで、審査対象とされるため、業務内容の変更は認可されにくいとお考えの向きもあるかもしれませんが、実はそうではありません。
不正な入国を防ぐ目的を持った審査を受ける場合と、国内で問題なく業務に従事している人材の業務内容を正規の手続きに則って変更する場合では自ずと、審査する側のハードルの高さがかなり違ってくるからです。
変に警戒して貴重な人材の在留資格を危うくするよりは、正々堂々、正しい規則に則って然るべき手続きを実施すべきです。
ビザと在留資格の違いとは?
長期的な就労目的で外国人A氏が来日する場合、在留資格認定証明書の事前申請は必須です。受け入れ側の企業が代理人として来日前に事前の申請を行い、証明書が発行された時点でA氏へと郵送。受領したA氏は証明書を持参したうえで自国の日本大使館または領事館を訪れ、ビザの発給を申請します。つまり就労目的の来日には「在留資格認定証明書」と「ビザ(査証)」、そしてパスポートが必須なのです。
では「在留資格」と「ビザ」の違いは、どこにあるのでしょうか。
簡単に言ってしまうと「在留資格」は日本に上陸するための条件を満たしている人に与えられる、主に日本に長期滞在するための資格で、「ビザ(査証)」はその資格を持つ人が日本へ入国することに対して交付されるお墨付きのようなものです。
ビザ(査証)は入国審査の際のみに必要なもので、1回限り有効なビザの場合は入国審査が完了するとその場で失効します。その代わり空路で主要な空港から日本に入国した場合、空港において「在留カード」が交付されます。2023年10月現在、新千歳空港,成田空港,羽田空港,中部空港,関西空港,広島空港及び福岡空港においては空港で「在留カード」が交付されます。その他の出入国港においては、パスポートに上陸許可の証印が押され,その近くに「在留カードを後日交付する」旨の記載が入り、住居地の届出をした後に、当該の居住地に「在留カード」が届けられることになります。
大変紛らわしいのは、査証としての「ビザ」の他に、労働報酬を得ることを認めた「在留資格」のことを『就労ビザ』と呼びならわす習慣が存在することです。つまり、『就労ビザ』と称する場合は査証の事ではなく「在留資格」のことを指している場合が多いということになります。これは法的に定められた用語ではありません。
また、さらに紛らわしいのは、外務省のホームページでは様々な「在留資格」ごとに、在留期間と必要書類をまとめた情報を公開していますが、教授、芸術、宗教、報道、経営・管理、法律・会計業務、医療、研究、教育、技術・人文知識・国際業務、企業内転勤、介護、興行、技能、特定技能、技能実習の資格で取得するビザをまとめて『就労ビザ』と称してしまっていることです。
整理をすると、「ビザ」は査証のことであり、『就労ビザ』は「在留資格」を指す通称です。混同しないようにご注意ください。
外国人人材に交付される「在留資格認定証明書」は、来日後に許可される活動内容を認定する重要な書類です。
その人材が実際に日本へ入国して、企業の業務で活躍することが認められるかどうか……最終的な判断は、入国の際に空港で行われる入国審査に委ねられていますので、「在留資格認定証明書」が交付されていても、何らかの理由から、空港のぎりぎりの水際で認定が取り消される可能性もゼロではありません。
毎年、特別に上陸許可を得た例や特別に上陸拒否をされた例が法務省より公表されておりますが、書類の内容に虚偽があった場合や、過去の在留で問題があった場合、それが後から発覚して入国審査で上陸拒否となるケースも、事例は少ないながら、実際にあるようです。
なお、日本国内で対価を得て労働をする事が認められている「在留資格」には「高度専門職」というものもあります。ここで“高度な専門職”として対象とされているのは、「大学教授や教師」「科学分野や心理学、社会学などの研究者」「事業体の経営者や役員クラス」の人材です。一般的なエンジニア人材の採用を考える場合には、あまり気にしなくてよいものとご理解いただければと思います。
外国人エンジニアに必須の在留資格[技術・人文知識・国際業務]とは
本ページの上部で、在留資格には数多くの種類があることを紹介しました。特に就労目的で入国し、長期滞在する場合には、職種により細分化されたなかから適切な在留資格を申請し、事前に認定証の交付を受けておく必要があります。
就労目的の在留資格の種類
外交、公用、教授、芸術、宗教、高度専門職、経営・管理、法律・会計業務、医療、研究、教育、技術・人文知識・国際業務、企業内転勤、介護、興行、技能
上記のように、就労目的の在留資格は多岐にわたっています。上記に含まれる[介護]は2017年に新設されたものでした。その背景には「海外の人材に頼らなければ、介護需要を賄えない」という日本国内の状況があります。時代の要請により、内容も変化するのです。
外国人エンジニアの場合は、通常、就労ビザの中でも[技術・人文知識・国際業務]が該当します。こちらの在留資格には、エンジニアのほかに通訳やデザイナー、語学教師、そしてマーケティング業務などの職種も含まれています。
在留資格認定書の交付は、主に受け入れ側の企業が代理人として申請しますので、内容を間違えないよう、注意しなくてはなりません。
[技術・人文知識・国際業務]の取得条件
エンジニアとして採用する外国人は、通常[技術・人文知識・国際業務]の在留資格を認められなければなりません。
この認定を受けるためには「雇用者である企業の経営状態」が審査されますが、雇われる外国人に関しても、以下の条件をきちんと満たしていることが重要です。
1.在留資格に該当する技術、もしくは知識に係る科目を専攻したうえで大学を卒業していること。または同等以上の教育を受けたこと
2.在留資格に該当する技術、もしくは知識に係る科目を専攻したうえで日本国内の専修学校の専門課程を修了していること(法務大臣が告示をもって定める要件に該当する場合に限る)。
3.10年以上の実務経験を有すること(大学、高等専門学校、高等学校、中等教育学校の後期課程または専修学校の専門課程において、在留資格に該当する技術、もしくは知識に係る科目を専攻した期間を含む)。
4.法務大臣が告示をもって定める情報処理技術に関する試験に合格している。または法務大臣が告示をもって定める情報処理技術に関する資格を有している。
上記4つのすべてを満たす必要はなく、いずれかに該当すればOK。これまで自国で生活していた外国人の場合は、特に1を満たしているか否かが重要です。
また企業側が「日本人と同等額以上の報酬」を約束したうえで雇用契約を結んでいることも、認可のために必要な条件となっています。
まとめ
就労目的の来日と長期滞在には「在留資格認定証明書」と「ビザ(査証)」、そしてパスポートが必須であることがおわかりいただけたのではないでしょうか。
些細な判断ミスが大きな不便や国際問題に発展する可能性もあるので、注意が必要、全て大事なことです。
せっかく採用した外国人エンジニアを手放すようなことがないよう、諸手続きは正確に進めていきましょう。