フィリピン人エンジニアの採用ガイド
どちらかと言うと『貧しい層の人が多い国』というイメージもあるフィリピン。日本に渡航してきてサービス業に従事しているという人の数は、現在も少なくありません。そんなフィリピンで、エンジニアとして活躍できる人材はいるのか? 調査してみました。
【地理・文化・政治・宗教観】フィリピンってどんな国?
フィリピンは東南アジアに位置する島国で、フィリピン海と南シナ海に囲まれた、温暖な気候が特徴です。数百年に渡ってスペインの植民地だった時代があり、また、19世紀から第二次世界大戦後の独立まではアメリカの植民地でした。このため東南アジアとしては珍しくキリスト教が浸透しており、国民全体の8割が信仰しています。
GDPはまだ低く「富裕層と貧困層の間に大きな差が生じている」という問題も抱えています。
しかし1986年に、それまで独裁政権を続けていたフェルディナンド・マルコスが退陣に追い込まれて大統領制が廃止されたことを契機に、経済は徐々に上向きとなっており、今後ますますの発展が期待できます。
また教育面では2011年に幼稚園~高校までの義務教育化が制定されました。大学への進学率も急速に上昇。私学の最高峰と位置付けられている名門『デ・ラサール大学』などでは、多くの優秀なエンジニア候補生が輩出されています。
【国民性】フィリピン人エンジニアの特徴は?
温暖な気候で育ったフィリピン人は、基本的に朗らか。また家族や知人とのコミュニケーションを大切にし、真心でもてなそうという気持ちに溢れています。時にはそうした性格がおしゃべり、おせっかい、そして噂好きという方向に発揮されてしまうこともあるでしょう。また貧富の差が激しい社会に生きるフィリピン人は上昇志向が強く、『ブランドものにこだわる見栄っ張り』な人がいるという側面もあるようです。
特筆すべきなのは『英語が堪能な人材が多い』ということ。フィリピンでは英語が公用語のひとつであり、国民の約8割は英語力を備えています。なかでもエンジニアとして就業可能な教育を受けてきた人材は、平均的な日本人よりもずっと流暢に英語を操ります。実際、日本での利用者が多い『オンライン英会話』の講師は、ほとんどがフィリピン人であることはご存じの方も少なくないはずです。
英会話力のみならず、英語で書かれた最先端のIT技術をいち早く読み込んで、情報をキャッチアップしたり、世界各国のITエンジニアとスムーズにコミュニケーションがとれるのもフィリピン人エンジニアの大きなメリットといえます。もちろん海外との取引が多い職場で通訳としての活躍も期待できますね。
また、近年では日本語学習熱も高まってきています。エンジニアに限ることなく、日本国内で働くフィリピン人が多いこととも関連しています。日系企業がフィリピンに設けたオフショア拠点で仕事をする20代30代のエンジニアが少なくないことも、彼らが日本という国に対して心理的ハードルを下げている大きな要因だということができるでしょう。
さらに、後述の通り、フィリピンでエンジニアを目指す人は、比較的裕福な環境で高度な教育を受けることができた人たちに限定されます。競争意識も強く、積極的に優れた技術スキルを身につけた“志の高い層”ということもできるでしょう。
スキル的にも優秀で、上昇志向も強いフィリピン人エンジニアを選んで採用することは、日本企業の既存組織に新鮮な風を吹き込み、活性化してくれることが期待できます。仕事に対して真剣に向き合う彼らの姿勢は、同じ職場で働く他の日本人エンジニアに良い刺激をもたらしてくれることでしょう。
【新卒・転職】フィリピン人エンジニアの就活・採用事情
発展の途上にあるフィリピンでは貧富の差が激しく、貧しい家の出身者は、大学に通うことができません。このため希望の職業に就くための教育を受けることができず、選択の幅が狭められているという状況があるようです。
またフィリピンは『コネ社会』と言われており、実力があっても有力なコネがないと、なかなか希望の職種に就けないという不条理さを抱えています。
さらに多くの障害を乗り越えて就職を果たしたとしても、フィリピン国内で就職した正社員には『6ヶ月の試用期間』というハードルが残されています。こうした習慣を悪用し「本収入が発生する試用期間終了の直前で、解雇する」というかたちで労働力を搾取する企業も少なくないとか…。「国内の企業は世界的に見て所得が低いし、ブラック企業が多すぎる…」と嘆くフィリピン人は、数多いようです。
このような状態の国内に見切りをつけたフィリピンの優秀な人材は、隣国のシンガポールなどに活路を見出し、採用を勝ち取っていきます。また、日本やアメリカといった海外企業での就職を前向きに検討している人もたくさんいます。とくに日本は、前述のように、彼らにとって地理的にも、心理的にも近い国であり、日本へ来て仕事をすることに関する抵抗感はかなり低い、と期待してよいと考えられます。
【仕事観】フィリピン人エンジニアが就職先を選ぶ際に重視するポイント
フィリピンの物価は安く、GDPも日本に比べて低くなっています(※)。このため「日本で働ければ、フィリピンよりもずっと稼げる」という考え方が、今でも残っています。高収入であることに越したことはないでしょうが、他の外国人ほど「給与面に強くこだわって、応募を検討する」ということはないでしょう。
※情報出典:外務省 アジア大洋州局地域政策参事官室「目で見るASEAN -ASEAN経済統計基礎資料-」(令和5年12月発表)
その代わり彼らが重視するのは、職場環境です。フィリピン人は基本的に明るく、楽しく仕事に臨むことを望んでいます。たとえば「黙々と仕事をすることが美徳」と考えている企業で勤務姿勢を厳しく指導しすぎると、早期の離職を招いてしまうような可能性もあります。陰湿なパワハラやモラハラのないクリーンな職場で働くことは、フィリピン人にとって非常に重要なのです。
また現在、日本に在留しているフィリピン人の多くは、単身者です。母国から遠く離れた日本で生活しているので、里帰りできる機会を得られるか否かは、重要な関心事。長期休暇をきちんと用意している企業に対しては、積極的に応募を検討するはずです。
【どうやって出会う?】フィリピン人エンジニアを採用する方法は?
日本には今、約20万人のフィリピン人が就労していて、この人数は、在日外国人労働者数のうちで、ベトナム人、中国人に次ぐ、第3位の多さです。
※情報出典:厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況まとめ」(令和4年10月末現在)
しかし、そのうちで専門的な技術分野での仕事をしているフィリピン人はまださほど多くなく、多くは、女性も含めてサービス業に従事する人材が多い傾向にあります。そうした状況のなかで、優秀なフィリピン人エンジニア人材を探して雇用するには、どうしたらよいでしょうか。1.現地の人材紹介会社と求人サイトを活用する
現地のオフショア拠点で就労しているような優秀な人材を獲得したいなら、フィリピンの人材紹介会社を通じて求人サイトに広告を掲載するのが早道です。彼らは英語の募集要項を普通に目に留めて、チェックしますし、日本よりも広告費用が安く掲載できる、というメリットがあります。場合によっては、隣国のシンガポールや、マレーシアから応募が寄せられることもあるでしょう。
2.在日フィリピン人に紹介を頼む
日本で活躍するフィリピン人エンジニアの数は、まだそれほど多くありません。しかし、彼らは単身日本に渡り、就労する中で、同郷人のネットワークを築いています。きちんと教育を受け、就労経験値も高いフィリピン人のコミュニティには優秀な人材が多く、日本の労働環境にも、ある程度順応力があります。募集や選考のプロセスを大幅に省けるというメリットもありますので、適当な人物に心当たりがある場合は、積極的に紹介を依頼しましょう。
ただし、いずれの方法をとるにしても、フィリピン人材を採用する際には、他の国の外国人の採用時とは明らかに異なる、法制上の注意点があります。そのことを次に詳しくご説明します。
【注意点】フィリピン人エンジニアを採用する際に意識すべきこと
まず、フィリピン人の人柄的な注意点があります。
フィリピン人には陽気な性格の人が多く、いつも笑顔で、人との会話を楽しみます。時には鼻歌交じりで仕事に臨むことも…。本人に悪気はない、と周囲の人間が理解することが望ましいところですが、職場の中で他の社員が違和感を感じたり、批判的な印象を抱くようになるのは良くありません。まずは本人に日本のビジネスマナーをきちんと指導しましょう(逆に閉鎖的な空気が常に漂っている職場に、フィリピン人が風穴を開けてくれるという可能性もあります)。
そして、これが重要なところですが、法制上手続きで、留意しなければならない点があります。
他の外国人とは違い、フィリピンは日本を含む、海外企業のフィリピン人雇用に制限をかけています。全国民の10%、つまり10人に1人が海外で働いているという実情から、政府が海外で働く自国民の労働環境を守るために、その就労先や労働条件を厳密に管理・監督する独自の雇用ルールを設けているのです。
この雇用ルールにより、現地から直接呼び寄せる場合は、現地で管轄官庁から公認を受けているエージェント(人材紹介会社)を仲介させることが必須となります。また、すでに日本にいるフィリピン人を雇用する場合には日本のフィリピン大使館内にある「移住労働者事務所」(MWO:Migrant Workers Office )への申請が必要となると理解しておきましょう。 このMWOは、2022年以前はPOLO (Philippine Overseas Labor Office)という名称で呼ばれていた組織です。
正規の手続きを踏んでいないと、不法就労の罪に問われ、本人/企業ともに不利益を被ることになるので、くれぐれも注意しなければなりません。
a.フィリピン在住のフィリピン人材を採用する際の手順
■用語説明:
DMW | ●「Department of Migrant Workers:移住労働者省」の略称。 ●海外で働くフィリピン人の権利保護や福利厚生の促進などを目的に設立されたフィリピンの政府機関。 |
2022年以前は「POEA」(Philippine Overseas Employment Administration:フィリピン海外雇用庁)という名称だった。 |
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MWO | ●「Migrant Workers Office:移住労働者事務所」の略称。 ●DMWの出先機関として世界各国に設けられている拠点。 ●日本には、MWO東京(在東京フィリピン共和国大使館 移住労働者事務所)と、MWO大阪(在大阪フィリピン総領事館 移住労働者事務所)がある。 |
2022年以前は「POLO」(Philippines Overseas Labor Office:フィリピン共和国大使館海外労働事務所)という名称だった。 |
■採用企業がとる手続き手順:
(1) DMWの公式Webサイトから「DMWに公認されたフィリピンの人材会社」を選定し、契約を結ぶ。
(2)申請書類を作成し、MWO東京もしくはMWO大阪に提出。
(3)MWOの審査を通過した後、MWOから承認印が押された「提出書類」が返送される。また「面接日」も連絡される。
(4)書類を提出したMWOに出向いて、MWO担当官による面接を受ける(英語)。
※雇用の目的や事業内容などについて質問される。通訳を用意することも可能。
(5)面接通過後、返送された書類一式をフィリピンの人材会社へ提出、人材会社がDMWシステムに情報を登録され、DMWの認証印が押印された書類が返送される。
(6)人材会社がフィリピン人材の募集を開始。
(7)候補者を選定し、現地またはオンラインで面接。
(8)内定者が決まったら、採用企業が「在留資格認定証明書」(COE/Certificate of Eligibility)の交付を日本の地方出入国在留管理局に申請。
(9)交付された在留資格認定証明書(COE)の原本をフィリピン人材会社へ送付。
(10)フィリピンに居る人材本人がフィリピンの日本大使館に行き、在留資格認定証明書を提出、ビザ(査証)の発給を受ける。
(11)人材が人材会社へ申請を行ったうえで、「海外労働福祉庁実施の出国前オリエンテーション」や、「出国前の健康診断」を受ける。(これらはビザの発給と同時進行することも可能)
(12)フィリピン人材本人がMWOに対し、「OEC」(Overseas Employment Certificate:海外雇用許可証)の発行を申請する(在留資格によっては、人材会社を通して申請することもある)、OECの発行は手数料が必要。
(13) OEC発行後、フィリピン人材本人がOECを提示して出国手続きをとることが可能になる。
(14)フィリピン人材が来日、入国審査で在留資格認定証明書(COE)とパスポートを提示、審査が終わると「在留カード」が渡される。
(在留カードは、成田・羽田・中部・関西・新千歳・広島・福岡以外の空海港から入国の場合には、後日交付)。
(15)日本の企業で、フィリピン人材就労開始へ。
b.日本在住のフィリピン人材を採用する際の留意点
●エンジニア人材(=「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つ)が日本国内で、新たに就労する場合は、改めてMWOへ申請し、OECを取得することが必要。(但し、同じ企業内での転勤の場合は、申請不要)●MWOに必要な申請をしていないと、その人材が一時帰国した場合、再度の出国が不可能になるので要注意。
フィリピン人エンジニアの採用まとめ
フィリピンでは一部の、富裕層が貧しい人を搾取してきた負の歴史を持っています。しかしその分、フィリピンの人々は自分の人生や働き方について、前向きな考え方を持ち、強く、明るく、真剣に生きていく意欲を備えていると言えます。
フィリピンのエンジニア人材が身につけている本来の実力を存分に発揮できる機会を提供し、その働きにきちんと対価を与える環境を整えれば、彼らはあなたの会社の貴重な戦力として活躍してくれることでしょう。