外国人採用の不安「宗教への配慮は何をすればいい?」
時間と費用をかけて採用した優秀な外国人エンジニアに、気持ちよく長く働いてもらうために、宗教への配慮は大切です。宗教を強く意識する習慣がない日本人には『宗教と共に生きる人のライフスタイル』を理解し、尊重する姿勢が求められます。
外国人との文化の違いや宗教的な理由による習慣を理解しよう
日本の神道や仏教同様、人の住む場所には宗教があり、生活の中に深く浸透しています。ただ、一概には言えませんが、日本では宗教や信仰といったことを生活のなかであまり意識しない人が多くなっている傾向もあるかと思います。
しかし外国では、僧侶などの宗教人でなくても「1日数回、決まった方向に向かって数回お祈りをする」、「毎晩聖書を読む」などの習慣を励行する人が数多くいます。その姿に違和感を覚えているようでは、企業のグローバル化は決して進められません。注意が必要です。
敬虔(けいけん)な人の人生にとって、信仰する宗教の戒律は大きな意味を持っています。彼らはエンジニアや社会人である前に、まず特定の宗教の信徒。「仕事上の問題はさておき、まずお祈りをしなくては」と言った具合に、内心の優先順位を高く設定しています。こうした生き方に触れていくうち、仕事は別の世界を持つ彼らの生き方に、深みがあることが見えてくるでしょう。
「仕事をないがしろにして…」などといったネガティヴな感想を持つのではなく「信仰が彼らの人生を支えている」と理解し、ライフスタイルを尊重する姿勢を育てていかなくてはなりません。
世界の宗教と主な人口分布、文化・習慣の特徴
世界には多くの宗教が存在しています。中でも信者が熱心な布教を進めた結果、広範囲に広がった宗教がイスラム教、キリスト教です。あと日本を含むアジア領域で広く信仰されている仏教、逆に日本では比較的なじみが薄いものの信仰者が世界に広がっているユダヤ教も忘れてはいけません。
また、世界有数の人口を誇るインド国民の約8割が信仰するヒンドゥー教も、その信徒数の多さから見て、世界的に影響力のある宗教です。外国人エンジニアの採用を考える際に留意すべきそれぞれの主教の特徴を見ていきましょう。
イスラム教の文化・習慣と、採用側が配慮すること
イスラム教を信仰する人は、世界中に10億人から20億人程度存在しています。アッラーの神を信仰する一神教で、偶像崇拝を禁じているため、キリスト教のイエスキリストや、仏教の仏陀のようなアイコンが存在していません。
日本では「イスラム教=中東」というイメージを持つ人が多くなっています。しかし実際にはアジア・太平洋側に信者が多く、全体の6割を超えています。一例を挙げるとインドネシアは国民全体の8割がイスラム教徒で、首都ジャカルタには世界最大のモスク(イスラム教徒にとっての教会)も建築されています。
イスラム教は、信徒に戒律を授けています。中でも「1日5回、聖地メッカの方向に祈りを捧げること」、「年に一度のラマダーン月の間は、日の出から日没までの間、食べ物を口にしてはならない」という内容は、教徒ではない人の目には驚くほど厳しく映ることもあります。彼らと共に就業していると、そのストイックさに感心させられることも、しばしばあるでしょう。
またイスラム教は、豚肉の摂取と飲酒を禁じています。女性が肌や髪を見せることにも否定的なため、信徒は職場や宴会の席でも、忠実にルールを守ろうと努めます。他の者がそれをやめさせるような指示や発言をすることは、信仰に土足で足を踏み入れる行為に等しいことです。社内のルールとして、そうした行為の禁止を徹底するくらいの措置が必要でしょう。
イスラム教徒を採用している大手企業は、社屋内に礼拝室(もしくは礼拝できるスペース)を設けています。彼らを含む全社員に、気持ちよく仕事に集中してもらうために下された、非常に賢明な判断と言えるでしょう。
なお1回の祈りは10分程度で、1日5回中の2回程度が、勤務時間内に発生します。
キリスト教の文化・習慣と、採用側が配慮すること
キリスト教は2023年現在、世界で最も信者の数が多い宗教です。欧米で最もメジャーな宗教であるほか、ヨーロッパ諸国が植民地開拓をしていた時代に、“布教”という名目で改宗を強制した過去があることから、アジア諸国にも多くのキリスト教徒がいます。たとえば、フィリピンで最も信者数が多いのは、キリスト教です。
キリスト教は、イスラム教ほどには戒律が厳しくありません。教徒の中でも「毎週の礼拝を欠かさず、就寝前には必ず聖書を読む」という人はそれほど多くありませんし、特定の食物を禁止する戒律もとくに存在していません。このため受け入れ側の企業も、特別な配慮を求められる機会は少ないでしょう。
ただしキリスト教には宗派の分裂が見られ、宗教内戦争が繰り広げられた過去もあります。現代ではそうそう深刻な対立などはないようですが、伝統を重んじるカトリックと、宗派を多く持つプロテスタントの間には、教義の捉え方に差があったります。
特にカトリックの信徒はストイックで、自分にも他人にも厳しいという一面を持ち合わせています。その考え方を尊重し、対応を慎重に検討していく必要があるかもしれません。
ユダヤ教の文化・習慣と、採用側が配慮すること
イスラム教、キリスト教に比べると、信者数はそこまで多くはないユダヤ教ですが、実は、前述のふたつの宗教を理解するうえで非常に重要な宗教です。つまり、ユダヤ教を知ることは、キリスト教やイスラム教への理解に繋がります。
その成り立ちは紀元前にまで遡り、ユダヤ人(古代のユダ王国に由来する人たち)の間で信仰されていた民族宗教のひとつでした。しかしユダヤ教からキリスト教が派生し、それが世界中に広まったことから、ある意味で、特異な位置を得ることとなりました。
現代においてユダヤ人はユダヤ教を信仰する人、もしくはユダヤ教徒の家系をもつ人のことを示しますが、彼らは国家・国籍に関わらず世界中に散在しています。採用の際にはじめてユダヤ教信徒であることが判明する場合もあるかと思われます。例えば、IT業界でその名を知らぬ人はいないビル・ゲイツは、ユダヤ人です。
また、イスラム教徒とは聖地をめぐり骨肉の争いを繰り広げた歴史があります。その流れは、2023年に勃発したパレスチナ・ガザ地区問題にもつながっています。両宗教の人材を採用する際には、配慮が必要になる場合も出てくるかもしれません。
なおユダヤ教は戒律が厳しく「1日に3回祈りを捧げる」「豚肉、えび、タコ、イカ、貝類などの摂取を禁止」「牛肉も調理法次第では禁止」などのルールがあります。宗教上の祭事・行事を重視するという特徴もあるようです。
ヒンドゥー教の文化・習慣と、採用側が配慮すること
キリスト教、イスラム教、仏教と並んで「世界四大宗教」とも称されるのが、ヒンドゥー教です。
その成立はインダス文明の時代にまで遡ります。信者は主にインド、そしてネパールに集中。いわば南アジア特有の宗教と考えることができます。しかしインドの人口は増加の一途を辿っており、いまや中国を抜いて世界第1位に躍り出たとされている現状です。このこともあって、ヒンドゥー教の信者数は、仏教のそれをはるかに上回る数となっています。インド人の世界進出は目覚ましいため、私たち日本人にとっても、今後より身近な宗教となっていく可能性もあります。
ヒンドゥー教は多神教であり、その修行法であるヨガは、日本を含め世界的に受け入れられました。一方、教義の中に階級制度(カースト)に基づく身分差別や女性蔑視を助長する要素が内包されていました。インドではヒンドゥー教の影響で、婚姻や就業に支障をきたすという例が後を絶たなかった、という側面がありました。
受入れ企業として外国人社員が信仰する宗教を尊重する姿勢は必要です。一方、ヒンドゥー教徒にも、日本社会などでのルールにある程度順応する姿勢を養ってもらうことをお願いする場面も出てくるでしょう。
なおヒンドゥー教徒の中には、豚肉や牛肉を食べず、魚も拒否するベジタリアンや、ある一定の期間だけ食べるものが制限されるなど、人それぞれ食べ物の制限が違うケースが多いので、社員同士で食事に行く際などは事前に確認をしておくと良いでしょう。「不浄」を嫌うので、複数の人数で鍋を共有する料理などには馴染まない、と知っておきましょう。
外国人採用の不安「宗教への配慮は何をすればいい?」 まとめ
宗教を強く意識しない日本人にとって、外国人の敬虔な信徒としての言動は、時にストイックすぎるような印象に感じられることがあるかもしれません。
しかし宗教は心の拠り所であり、外国人の中には「神を信じないということは、何も信じないことと同じ」と明言する人もいます。
彼らが快適に仕事へ臨めるよう、宗教への理解を深め、信仰による習慣や規則を受け入れられる環境を整備していくことが、大切となってくるでしょう。